「泥船人生相談」第10回 幻の名盤解放同盟
――平等に聴く耳を持て。悩みに貴賎はない。同情も同調もいらぬ。――
人間の“生”の 現われである“悩み”を底辺から集め、既存のあらゆる倫理/道徳、価値体系の泥沼にはまったあなたを幻の名盤解放同盟が真理の大海へと解放致します。
■メイン回答:船橋英雄/一コマ漫画回答:根本敬/音盤回答:湯浅学
(毎月1回更新)
- 相談其の19(泥船ネーム:紫局部 108歳ウキィ-! 男 雲水)
太古…小坊主の頃。巷では♪アンネの七不思議♪と言う小意気な唄が、流行っていたのですが…。
√月に一度の大出血♪アンネの七不思議♪
√怪我でも無いのに♪血ぃ~いが出る♪アンネの七不思議♪と…何番目かもズンドコ度忘れ…かつ、二歌詞しか覚えていない体たらく(+_+)
残りの五不思議歌詞を♪お参方々に…コソッ~と、お教え頂ければ幸いです!…_(_“_)_- メイン回答船橋英雄
寡聞にして知らない。ガタがきたパソコンは限りなくファックス付き電話機に近いしスマホも持っていないので検索できず。ご容赦あれ。
似たような曲で知っているのは『赤とんぼの唄』(あのねのね)。それが流行っていた当時、歌詞の一節をきちんと理解できていなかった。
♪アンネがなければできちゃった
このあとに、できちゃったのは赤ん坊と続くのだが、俺はアンネを避妊具か貞操帯の如きものと誤解してしまったのである。防御をしっかりしないから、うっかり忘れたからヤラレちゃったんだ、と。月の使いが訪れないのはコウノトリが赤ちゃんを運んできた証しという意味に思い至らなかったのである。童貞の青二才の勘違いにはアンネ・ナプキンのCFが大きく与る。テレビ画面に映し出されるその品の形状は小さな楯そのものだったから。
スムースインがキャッチフレーズのタンポンが追って登場した頃には無知を脱していた。ナプキンもタンポンも堀の内なる氾濫(反乱)を沈める(鎮める)ための用品と認識できた。
『赤とんぼの唄』と共に思い出す口上がある。下校時の廊下や下駄箱前でよく鼻歌みたいに発していた級友O君の「安保とタンポンでアンポンタ~ン」。学生運動、学園紛争の血の匂いが巷のあちこちにうっすらと残っている頃だったよなぁ。タンポンは警棒、ナプキンはジュラルミンの楯ってか?
あなたが♪アンネの七不思議♪と言う唄に鋭く反応しているのは真っ当です。かの埴谷雄高をして書かしめてるんだから、男にとっての永遠の謎は女性の生理、と。
大腸の病気を患い、ドバドバ、ゲバゲバ、ピーッとのべつ幕なしに夥しい血便に襲われた。赤く染まった白地の便器を覗くたびに月経の苦労に想いを馳せもした。異状排便の様を事細かに説明し、生理とはこんなものかと知り合いの女性に尋ねたら、「バーカ」と一蹴されてしまいました。全然違うみたい。実感がつかめない、まさに想像を絶するメカニズムだね。
残りの五不思議歌詞は自作したらどうだろう。不思議以外にも不合理とか不条理とか不備とか不渡りとかいろいろな不について考えるきっかけを与えてくれると思うな、生理は。
いや、肉体を捧げよう。40年間に渡って毎月毎月自動的に不妊、無産の通知を突きつけられ、痛みや煩わしさにも見舞われる女性の身にいくらかでも近づこうとするならば、夢精を迎えてから50歳(閉経年齢の目安)に至るまで毎月決めた一週間、最低でも5日間をマスカキに充てるべきだ、手動式膣外射精という擬似月経の期間を設けるべきだ。手中にあった自由と快楽が去った時、男の中の卵がきっと何かを語り始めるでしょう。
- 一コマ漫画回答根本敬
- 音盤回答湯浅学
知りません。
♪食あたりでもないのにおなかが痛い
ぐらいしか思いつきません。
- 相談其の20(31歳 男 会社員)
どこの職場、組織、または教室など、とにかく集団の中には「コイツさえいなければ」という嫌な奴が大抵一人はいると思います。そいつが総ての流れを堰き止め、希望や可能性を奪う元凶であるのを皆知っています。でもそういう奴はえてして自分が嫌われていることや、ひどく迷惑をかけていることに無自覚で、それどころか皆が眉をひそめてしまうウンザリするような言動・行動も、そいつにすれば善意だったり正義だったりするので始末におえません。「死ねばいいのに」とか、「早く死んで欲しい!」と皆がそう心の底から思ってる奴に限ってなかなか死なないのは何故ですか?
- メイン回答船橋英雄
広沢虎造の『森の石松』じゃないが、馬鹿は死ななきゃ治らない。
終電を逃して新宿のGというカプセルホテルに泊まった時のこと。露天風呂につかりサウナにも入ってさっぱりし、簡易ベッドがずらりと並ぶ小暗い休憩室へ。一同バスタオル一枚掛けた裸体を仰向けにして仮眠をとっている。一杯やってほろ酔い気分の者もいるだろう、今日の仕事の失敗を忘れんと努めている者もいるだろう。まあ、どうあれ等しくまぶたを閉じてじっとしている。
ほてりが徐々にひいてまどろみの淵へと落ちていく心地よさ。意識が遠のいたのも束の間、ペチャクチャペチャクチャペチャクチャペチャクチャ、傍若無人のおしゃべりが割り込んできた。ノイズは小さくなるどころか大きくなる一方で、下卑た笑いが頻繁に挟まれる。相方の声は聞こえない。力関係により聞き役に徹するしかないのだろうか。
ため息、深呼吸、咳払いと注意を促す音がここかしこで漏れる。起こされた苛立ち、非常識への憤りのニュアンスがあからさまに含まれている。が、聞く耳持たない人物にとっては無音も同然。
渋面のまま天井を見上げていた俺は観念した。シャワーを浴びてこようか、めしでも食おうか、ねぐらに引っ込んでふて寝しようか。何にせよ奴さんのツラをしっかと見下ろしてから立ち去ろうと決めた。
「うるせーな!」
雷鳴のような一声が轟いた。瞬時に空気が張りつめた。横になったままの皆が皆、固唾を飲んでいる。見なくてもわかる。殴り合いの喧嘩が始まりやしないかと心配し、耳をそばだて目ん玉をぎょろつかせる俺。五分、十分と静寂が続く。どうやら一件落着のよう。
気を取り直して眠ろうとした矢先、地響きさながらのいびきが! 発生源は同じだった。起きても寝てもこのザマ。絵に描いたような厄介者に俺は呆れ果て、また、感心してしまうのだった。
「死ねばいいのに」とか、「早く死んで欲しい!」と皆がそう心の底から思ってる奴に限ってなかなか死なないのは何故かといえば、自分が嫌われていることや、ひどく迷惑をかけていることに無自覚で、それどころか皆が眉をひそめてしまうウンザリするような言動・行動も、そいつにすれば善意だったり正義だったりするからであります。
生命体としてのきゃつには、おそらく特殊な発電/蓄電システムが内蔵されており、周りの総ての流れを堰き止め、希望や可能性を奪う元凶たる言動・行動をすればするほど細胞が活発となり長寿遺伝子がすくすく伸びる。加えて嫌悪や憎悪、殺意を太陽光や風力、地熱といった自然エネルギー同様に受け入れ蓄え、パワーアップしたり停電を回避したりできる。コントロール不能の恐るべき馬力、馬鹿力に対抗するのは馬鹿げている。敬して遠ざけよ。感電せぬようくれぐれもご用心。
- 一コマ漫画回答根本敬
- 音盤回答湯浅学
無自覚な人間は自分の死や他人の死についても無自覚だからです。
そういう人間はどうやら死のほうがはずかしがって近づかないのです。死=死神です。こんな奴の魂を死界に持っていっては死界のみなさまに申し訳ない、と死神も思うわけです。ああこんなとき必殺仕置人でもいてくれたらなあ。そう思うしかありませんが、そういう人ほどまぬけな死を迎える傾向にあります。
しばらくはがまんするしかありません。自分を貶めるようなことはなさいませぬよう。
お悩み募集!!
幻の名盤解放同盟の「泥船人生相談」では特殊なお悩みからたわいも無いお悩みまで、ジャンルを問わず募集しています。相談内容(600字以内)・氏名(任意/公開しません)・年齢・性別・職業を明記の上、件名を「泥船人生相談係」としてメールにてご応募下さい。
※お寄せ頂いた全てのご相談にお答え出来ないことをご了承下さい。またサイトで採用されたご相談は書籍化の際に掲載する場合がございます。謝礼はお支払い出来ませんが予めご了承下さい。
※頂いた個人情報をご本人の許可なく転用は致しません。
幻の名盤解放同盟 プロフィール
漫画家・根本敬(書記長)、音楽評論家・湯浅学(常務)、デザイナー・船橋英雄(社長)の3人が1982年に結成。以来、「すべての音盤はすべからくターンテーブル上(CDプレーヤー内)で平等に再生表現される権利を有するべし」をスローガンに、この世で最も地中に根を下ろしすぎた超仕事人俗エブリシング・オールライトな音盤たち(他)の探求に明け暮れること33年(2015年現在)。その活動――イイ顔とイイ歌を既存のあらゆる倫理/道徳、価値体系から解放する行為――が発端となり生じた社会現象が、90年代半ばに脚光を浴びたポンチャック・テクノの帝王李博士の活躍や昨今の昭和歌謡ブームである事を知る人はおそらく少ない。
なお幻の名盤解放同盟名義の業績として、音盤に「幻の名盤解放歌集」シリーズ・「幻の名盤解放箱」・「幻の名盤お色気BOX」(いずれもP-VINE)・「和ラダイスガラージ DJ MIX VOL.6 -女のスナッキーを踊ってみろ!」(永田プロモーション)、書籍に『ディープ歌謡 The dark side of Japanese pops』『夜、因果者の夜』(ともにペヨトル工房)・『幻の名盤百科全書』(水声社)、『お色気ディープ東京』(ブルース・インターアクションズ)・『元祖ディープコリア』(K&Bパブリッシャーズ※4半世紀に亘り3社の版元を経ての最新版)等がある。